大阪地方裁判所 平成3年(モ)52634号 決定 1992年6月01日
債権者
共栄工業株式会社
右代表者代表取締役
林映子
右債権者代理人弁護士
笹川俊彦
同
井上進
同
大砂裕幸
同
権藤健一
同
谷宣憲
右債権者復代理人弁護士
江後利幸
債務者
総評全日本建設運輸連帯労働組合近畿地方本部
右代表者執行委員長
吉田伸
債務者
全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部
右代表者執行委員長
武建一
右債務者ら代理人弁護士
中北龍太郎
主文
債権者・債務者ら間の大阪地方裁判所平成三年(ヨ)第七五九号仮処分申立事件について同裁判所が平成三年八月六日にした仮処分決定を認可する。
申立費用は、債務者らの負担とする。
理由
第一申立て
一 債権者
主文同旨
二 債務者ら
1 主文掲記の仮処分決定を取り消す。
2 債権者の本件処分申立てを却下する。
第二事案の概要
債権者は、債務者らの組合員が債権者の営業を妨害したと主張し、営業権に基づいて、債務者らを相手方として、営業妨害禁止等仮処分の申立てをして別紙記載の主文の仮処分決定を得た。その仮処分申立ての当否等が争われている。
一 争いのない事実
1 債権者は、建設、土木の設計、施工、生コンクリートプラントの経営(以下、生コンクリートを生コンと略称する)、生コン製品の製造、販売等を目的とする株式会社であり、債権者代表取締役の林義雄からその所有する別紙物件目録一ないし三記載の土地(以下、本件土地という)ほか二五筆の土地約一万坪を採石場などとして賃借し、本件土地上に事務所として使用する建物を所有し(以下、本件土地と地上建物を石部工場という)、石部工場で採石、生コン製造を行うなど、滋賀県を中心に営業活動をしている。
2 債務者総評全日本建設運輸連帯労働組合近畿地方本部(以下、債務者連帯近畿地方本部という)は、同中央本部の活動方針と決議に基づいて構成支部の活動を掌握し指導にあたることを目的とし、同目的を達成するため労働条件の維持、改善のための活動等の事業を行う労働組合である。
また、債務者全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下、債務者関西生コン支部という)は、組合員の強固な団結の力により機関決定に基づき労働者の経済的、政治的地位の向上を図ることを目的とし、組合員の生活や待遇を良くしていくため、賃金の引き上げや労働条件の向上のための活動をしている労働組合である。
債権者の従業員は、だれも、債務者らに加入していない。
3 滋賀県においては、昭和四八年四月に、中小企業団体の組織に関する法律に基づき、同県区域を地区とし、任意加入の組合員である生コン製造業者によって構成される滋賀県生コンクリート協同組合(以下、生コン組合という)が設立された。
債権者は、肩書住所地に本店を置いて滋賀県内で営業しているが、生コン組合には加入していない。
二 主要な争点
1(1) 債権者が債権者に対する営業妨害行為であると主張する行為の主体は、債務者らか。それとも、その行為の主体は、生コン産業近代化委員会(以下、近代化委員会という)または生コンクリートの品質管理を監視する会(以下、監視する会という)か。債務者らは、債務者主張の行為は近代化委員会、監視する会に関わるものであるから、債務者らは当事者適格を有しない旨主張している。
(2) 債務者らないしその組合員は、平成三年一月一八日ごろ以降同年三月一二日ごろにかけて(とくに同年三月一二日に)、債権者の生コンの出荷、入荷を妨げるなどの営業妨害の行為をしたか。
2 本件において、現在でも保全の必要性があるか。
第三判断
一 争点1について
争点1(1)(2)についてあわせて検討する。
右第二の一の事実と疎明(略)に審尋の全趣旨をあわせると、次の事実が認められる。
1 債務者らは、生コン組合に加入せずに生コン組合加入業者より低価格で生コンを販売する業者がいると、生コンの価格が不安定となり、業者間で安売りなどの過当競争が激しくなるため、生コンの品質を低下させ、あるいは企業の存立を危うくするなどの結果を招き、生コン企業に勤務する労働者の雇用不安や労働条件の低下をもたらす、などの理由により、債権者ら生コン組合非加入業者に対して生コン組合に加入するよう働きかけをしてきた。
2 債務者関西生コン支部の執行委員の松井秀雄は、平成三年一月一九日、債権者を訪れて、債務者らの執行委員の名刺を差し出し、かつ近代委員会が生コン組合未加入企業に対して加入促進を積極的に働きかけている旨や、各企業が生コンの適正価格を維持するよう求める旨などを記載した近代化委員会作成名義の申入書を債権者に交付した。
右申入書には、同月二五日までに申入れに対する回答を近代化委員会にするよう記載してあったが、債権者が回答しないでいたところ、同月二六日、松井と債務者関西生コン支部執行委員の金谷猷三が債権者を訪れ、右申入れに対する回答を求めた。しかし、債権者の責任者が不在であったため、右両名は責任者に来訪の趣旨を伝えるよう求めて帰った。同月三〇日、松井は債権者に赴き、債権者の常務取締役林康幸と会い、労働者の安定のために生コンの価格を安定させる必要があり、債権者も生コン組合に加入するよう求める趣旨の申入れを改めてしたが、林は、生コン組合には不透明な金がありすぎる、などといって、松井の申入れには応じなかった。
同年二月五日に債務者ら組合員の成瀬南男らが債権者を訪れて、債務者関西生コン支部執行委員長武建一作成名義の、生コン運搬車両の過積載が常態化しているため、その運搬に従事している労働者、労働組合が過積載の完全追放運動や適正積載による適正単価の確立を図る運動に取り組んでおり、債権者ら生コン業者も右運動の趣旨にそった実効ある措置をとるよう求める旨を記載した要請書を交付し、同月七日に成瀬が再び債権者を訪れて、債権者の生コン組合への加入の有無を確かめたが、債権者は回答を拒否した。次いで同月一二日、松井らが債権者を訪れて林常務に会い、債権者に生コン組合に入ってもらって生コンの価格を安定させることに協力してほしい、といった趣旨の話をしたが、林は、回答を拒否し、ただそのさい、松井から武執行委員長と会うよう求められたのに対し、名刺交換程度のことはしてみようといって、同委員長と会見することを約束した。
同月一四日、林は、大阪市内のロイヤルホテルで、武委員長、松井、ほか数名と会った。武委員長は、林に対し、債務者連帯近畿地方本部中央執行委員、債務者関西生コン支部執行委員長の肩書の名刺を交付し、「従来の生コン価格を一立方メートルにつき約二〇〇〇円値上げして一万六〇〇〇円とするとともに、債権者を含む生コン組合加入業者全部に生コン組合に加入してもらい、生コン販売についての滋賀県内のシェアー割りをする。従来からの生コン組合加入業者との利害を調整しながら、非加入業者の加入を進めたい。生コン価格の値上げと生コン組合加入は同時進行させる必要がある。同年四月一日からの値上げを実施するには、生コン組合への加入は同年三月初めがタイムリミットになる。連帯が生コン組合との話合いの窓口になる」といった話をして、債権者の生コン組合への加入を勧めたが、林は、生コンの価格についてそのような話合いをするのはカルテルにならないか、との疑問を呈するなどしたうえ、債権者としては生コン組合への加入の件について武委員長や債務者らに回答することはできず、同年三月初めになっても同様である、といって、武委員長の勧告には応じない態度を明らかにした。
同月一九日、債務者関西生コン支部副委員長で監視する会会長の中岸昭治が、債務者ら組合員数名とともに、債権者石部工場の事務所に来て、債権者の従業員に対し、同月二一日までに債権者が生コン組合加入の旨回答をしなければセメント、生コンの搬入搬出を実力で阻止する旨告げた。債権者は、そうしたことが行われては債権者の営業に支障を来すことが必至であることから、滋賀県警水口警察署に警備要請をした。
同月二一日朝、石部工場から取引先に対する生コンの搬出を始めたさい、債務者ら組合員が石部工場入口付近でそれを監視していたので、債権者は、出荷妨害をされては困ると考えて水口署に整備要請し、それに応じて警備に来た警察官と債権者従業員が同日午前九時三〇分ごろから午後四時三〇分ごろまで、監視行為をする債務者ら組合員の動向を注意していたが、当日、債権者は支障なしに生コンの搬出をすることができた。翌二二日も、債務者ら組合員が石部工場入口付近で監視行為を始めたため、債権者は、水口署に警備要請をした。当日、宮脇、松井が林常務に債権者の生コン組合への加入を申し入れたが、林は回答を拒否し、同月二七日に宮脇、松井と会って話をする旨のべた。林は、そのころ、債権者に生コン組合への加入してはどうかと話していた生コン組合加入業者である会社の役員と連絡をとって、その役員から、債権者が生コン組合に加入するかどうかは債権者と生コン組合との間の問題であって、そのことを債権者が債務者らと取り決めたり債権者らに回答する必要はないことを確認したうえ、同月二七日に、宮脇らと会って、債権者の生コン組合への加入の件については、債務者らに対しては返事できないというのが返事である旨をのべて、その件についてそれ以上に債務者らと話すことはできないとの態度を明らかにした。
3 ところで、債権者は、生コンの製造原料であるセメントを千原商事株式会社(以下、千原商事という)と株式会社和材(以下、和材という)を通じて東洋セメント株式会社から大量に購入していたが、債務者らが、千原商事、和材に対して債権者にセメントを納入しないよう申し入れ、これを拒否した場合には出荷阻止の行動をすることがある旨通告をしたことから、千原商事と和材は、債権者に対し、債務者らとの紛争を避けるため、同年二月二五日以降暫くの間セメントを納入しない旨通知した。その結果、債権者は、千原商事と和材からセメントの納入を受けることができなくなった。
また、債権者は、臨海セメント株式会社(以下、臨海セメントという)が韓国等から輸入したセメントを国内の業者に販売している臨海資材株式会社(以下、臨海資材という)から購入してきたが、債務者ら組合員は、臨海セメント、臨海資材に対して、債権者を生コン組合に加入させることにつき協力するよう要請し、さらに、臨海資材が債権者にセメントを販売、納入していることを確認したうえ、債権者の生コン組合への加入を実現させるため債権者に対するセメントの出荷停止をするよう求めた。臨海セメント、臨海資材は、債権者とのセメント売買契約を履行するといって、債務者らの申入れを拒否した。これに対し、債務者ら組合員約三〇名が、同年三月一日と五日に、臨海セメント、臨海資材の工場前に行き、債権者等に納入するセメントを積載したセメントローリー車(セメント輸送車)の運行を阻止する行動をし、同月一日にはセメント約一〇〇トン、同月五日には同約七〇トンの出荷を妨げた。出荷を妨げられたセメントの大部分は、債権者に納入されるものであった。
4 同年三月一二日の午前九時三〇分ごろ、債務者関西生コン支部執行委員武洋一と宮脇、中岸、金谷を含む債務者ら組合員約一六名が、車体に「連帯」と明記したワゴン車二台と別の乗用車二台に分乗して債権者石部工場付近に行き、ほとんどが「連帯」の腕章と「交通事故・災害につながる過積載をやめよう」と書いたゼッケンを着けて石部工場入口付近に集まり、そのうちの宮脇らが債権者の事務所に行き、警察とともに生コン車とセメントローリー車が過積載をしていないかどうかをチェックする旨通告した。しかし、そのときに警察官は来ていなかった。午前一一時七分ごろ、債権者にセメントを納入に来たセメントローリー車(車番三九一)が石部工場前にさしかかったところ、債務者ら組合員は、工場入口前に立ちふさがり、同車の運転手に対して「伝票を見せろ、見せられへんのやったら引き返せ」と要求するなどして、同車が石部工場内に入るのを阻止し、納入をあきらめた右運転手が同車を引き返させたため、債権者は、同車に積んだセメントの納入を受けられなかった。債権者は水口署に警備を要請し、午前一一時三〇分ごろ、債権者の要請に応じて警察官が石部工場前に到着し、債務者ら組合員と押し問答となった。その後午後零時一八分ごろ、債権者にセメントを納入に来たセメントローリー車(車番七七〇)が石部工場入口にさしかかったが、債務者ら組合員が同車を入口手前で停止させ、同車の前に立ちふさがって同車の工場内への進入を妨げた。そこで、警察官と債権者の従業員が右組合員を排除して同車を工場内に入れた。警察官はまもなく石部工場前から引き揚げたが、さらにその後の午後一時八分ごろ、臨海資材から債権者にセメントを納入に来たセメントローリー車(車番四一一)が石部工場入口手前にさしかかったところ、再び債務者ら組合員が、入口前の公道上に同車を停止させて運転手に伝票の提示を求め、同車の運転手が微速で同車を進行させようとしたのに対して、さらに右組合員が車体前面に立ちふさがり、そのうちの武洋一が車体右側面から右前輪すれすれの位置に座り込むなどして、同車の進行を完全に阻止し、債権者従業員と押し問答を繰り返した。このように債務者ら組合員によって同車が公道上に停止させられた状態が暫くつづき、債権者の従業員だけでは債権者ら組合員を排除して同車を進行させることができなかったため、公道上の一般車両の通行に支障が生じたが、債権者からの通報によって午後一時二五分ごろに警察官が再度駆けつけ、同車の前に立ちふさがっている右組合員を排除して、ようやく同車を石部工場内に進行させることができた。債務者ら組合員は、午後三時ごろに石部工場前から引き揚げた。
ところで、債務者らは、債権者の生コン運搬車両が過積載をいわば常習的にしているため、右当日石部工場前で監視、点検の活動をしたというのであるが、当日、債務者ら組合員は、外部から債権者にセメントを納入に来たセメントローリー車だけを停止させてその搬入を妨げたのであって、債権者の生コンを出荷するために何台かの生コンミキサー車が石部工場入口から出発しているのに、午前九時四八分ごろ入口を出た生コンミキサー車の運転手に伝票を見せるよう呼びかけた(運転手はそれを無視して車を進行させた)以外には、なんらの活動もしていない。債務者ら組合員は、債権者の生コンミキサー車やダンプカーについては過積載をした証拠を得ていたというのであるが、債務者ら組合員は当日石部工場に来ていながら、石部工場から出たそれらの車両について右組合員が得ているという証拠にそうような過積載をしているかどうかを確認する活動を(右生コンミキサー車一台に対するものを除いて)していない。
5 債権者の車両が生コンの過積載をしたことはあるが、滋賀県の業者についても、過積載は債権者や生コン組合非加入業者だけがしているのではなく、生コン組合加入業者も過積載をしたことが明らかになっている例がある。ところが、右の当時、債務者ら組合員が過積載の監視、点検の名目でした活動は、債権者や臨海セメント、臨海資材に対するものがとくに激しく、一方、生コン組合加入業者に対しては、生コン組合が過積載を是正するようにしているというだけの理由で、なんらの働きかけもしていない。
以上1ないし5のとおり認められる。
これによれば、平成三年三月一二日に債務者ら組合員が債権者の石部工場前でした行為は、債権者に対する生コン組合加入の要請が無視され、かつその加入を実現するための方法として臨海資材、臨海セメントに対してした臨海資材の債権者へのセメントの出荷停止の要求も拒否されたことから、債権者へのセメントの納入を実力で阻止することによって債権者の生コン組合に加入させようとしていたものであり、この債務者ら組合員の行為によって債権者へのセメントの納入が現実に妨げられているため、それを利用してする債権者の営業が妨害されたといえる。
債務者らは、当日の行動は、監視する会がセメントや生コン運搬車両の過積載の監視、点検のためにしたものであったというが、前記のように当日までに債務者ら組合員が債権者らに対して債権者が生コン組合に加入しなければセメント、生コンの入出荷を阻止することがある旨のべてきたこと、当日の行動に参加した債務者関西生コン支部執行委員の一人が、参考人審尋において、その行動は債権者に生コン組合に加入するよう求めるためのものでもあったことをうかがわせるようなことをのべた部分があること(書証略)、また、近代化委員会に属してはいるが監視する会には属していないという武洋一(書証略)が他の債務者ら組合員と同様の行動をしていること、さらに債務者ら組合員が、石部工場の外部からセメントを納入に来たセメントローリー車の搬入だけを阻止し、過積載の疑いが濃いと考えていたはずの石部工場からの出荷業務に従事する生コンミキサー車等については過積載の点検、確認をほとんどしていないこと、などをみると、債務者ら組合員の当日の行為を債務者らのいう過積載の監視、点検活動とみることは困難である。仮に当日の行動が過積載の監視、点検の性格も帯びたものであるといえるとしても、警察官等のように取締りの権限や強制的な調査権限のない債務者ら組合員としては、セメントを積載した車両の運転手など点検、調査の対象となる者の任意の同意を得て過積載の事実を確認する程度のことができるにすぎないというべきであって、当日のように約一六名もの債務者ら組合員が車両の前に立ちふさがるなどして車両の進行を阻止してセメントの納入を妨げ、他の一般の車両の進行にも支障を生じさせるというような行為は、法の許容する限度を超えたものであり、その行為は債権者の営業を違法に妨害したものといえる。債務者らは、当日債権者が債務者ら組合員に対して現場を混乱させるように挑発したため、車両の運行を僅かな時間停滞させるような事態を招いたにすぎないというが、当日は、前記のとおり、最初に債務者ら組合員が石部工場にセメントを納入に来た車両を停止させ引き返させており、そのときは警察官もおらず、債権者の従業員が債務者ら組合員を排除して右車両を工場内に入れることもできなかったのであり、その後の同様の二台の車両も初めに債務者ら組合員が各車両を停止させ、工場内への進入を阻止した後に、警察官や債権者の従業員がそれを排除する行為をしているのであって、債務者ら組合員の車両進行阻止の行動に先立って債権者が右組合員の行動を挑発した形跡はない(疎明のうちには、債権者の従業員や警察官が債務者ら組合員を排除しようとして組合員と押し問答となったさいに、債権者の林常務が組合員の感情を刺激するような発言をしていることをうかがわせるものがあるが、それも、組合員が車両を停止させてから後のことである)。
次に、右行為の主体の点についてみると、まず、疎明(略)によれば、主としてセメント、生コン関係の中小企業の育成、振興を目的とする近代化委員会という団体と、生コンの品質を維持し、過積載による交通事故を防止するための監視活動をすることを目的とする監視する会という団体が存在し、近代化委員会は宮脇が、また監視する会は中岸が、会長をしていることが認められる。
しかし同時に、右疎明に他の疎明(略)および前記事実の認定に供した疎明をあわせると、次の事実が認められる。すなわち、両団体とも、債務者ら組合員の多数を構成員とし、その事務局も債務者らの事務局のある生コン会館内に置き、両団体自体は同会館内に独自のスペースや財産を有しておらず、債務者関西生コン支部の部屋、電話、ファックス、什器、備品などを共通に使用し、債務者関西生コン支部の名を明記した封筒を使用して監視する会の名で生コン使用業者に対して要請書を発送し、また同様の要請書を債務者関西生コン支部法対部長の名刺とともに債務者関西生コン支部のファックスで送付するなどしている。両団体の役員、職員に関しても、右のように会長は定められているものの、両団体の構成員すら、会長以外に両団体独自の役員、職員がいるかどうかといったことも知らない。そして、前記認定の一連の行動はすべて債務者関西生コン支部の執行委員を中心とする債務者ら組合員がしたものであって、同組合員以外の者がその行動に参加した形跡はまったくない。また、平成三年三月一二日の行動には、債務者ら組合員は、「連帯」の名を明記した債務者らの自動車を使用し、かつほとんどが「連帯」の腕章をつけていた。さらに、債権者に対し、債務者関西生コン支部武建一執行委員長の名で、前記の過積載追放および生コン価格適正化に関する要請をして、(債務者らは両団体は労働組合ではないとしているのに)「労働組合」が右の活動をしていることを明らかにし、同委員長が債権者の林常務に会って債権者の生コン組合への加入勧告をしている。以上のとおり認められる。
この事実に前記認定の諸事情も総合すると、両団体は、いずれも、債務者らとの関係がきわめて密接であるのはもちろん、形式的にはともかく、実質においては債務者ら内部のひとつの部局という程度の組織であって、債務者らから独立した独自の実体をもたないものであり、かつ、債務者ら組合員の前記一連の行動は、両団体のいずれかのものとみる余地があるとしても、同時に債務者らを主体とする行動とみることができるといえる。なお、右のような行為の主体が誰かという問題は、当事者適格に関することではなく、実体に関するものといえるが、いずれにしても、債務者らは債権者主張の営業妨害行為の主体であると認めることができる。
要するに、債務者らは、その組合員によって、債権者に対する前記認定の営業妨害をしたものと認められるから、債権者は、営業権に基づき、債務者らに対して妨害禁止を求める権利(被保全権利)があるということができる。
二 争点2について
債権者は、債務者らの要求にもかかわらず、現在も生コン組合に加入しておらず、かつ、債務者らは、平成三年三月一二日以後は過積載の監視、点検のために石部工場付近に行っていないといいながら、疎明(略)によると、右以後も債務者ら組合員が石部工場付近で監視活動をしていることが一応認められることも考えると、債務者らが債権者に対して右同様の営業妨害行為をするおそれが依然としてあり、そして、前記事実によれば、セメントその他生コンの原材料の納入や生コンの出荷が妨害されると、債権者の営業に重大な影響を及ぼすおそれのあることが認められるから、本件では、保全の必要があるといえる。
三 以上のとおり、被保全権利および保全の必要性が認められ、債権者の本件仮処分申立ては理由があるので、主文掲記の仮処分決定を認可することとする。
(裁判官 岨野悌介)
(別紙) 主文
一 債権者が、各債務者に対し、それぞれ金五〇万円の担保を、この決定の送達を受けた日から七日以内に立てることを条件として、
1 債務者らは、その所属する組合員或いはその支援団体に属する第三者をして、別紙物件目録(略)一ないし三記載の土地に立ち入らせ、或いはその付近に佇立、徘徊させるなどして債権者の営業を妨害させてはならない。
2 債務者らは、その所属する組合員或いはその支援団体に属する第三者をして、債権者が別紙物件目録一ないし三記載の土地からその取引先工事現場へ、または債権者の取引先が右土地へ、セメント、生コンクリート及びその材料その他の土木資材を搬出若しくは搬入するのを、実力をもって阻止妨害させてはならない。
二 申立費用は債務者らの負担とする。